会長からのご挨拶
私が住んでいる帯広市でも,地元の本屋さんや全国チェーンの本屋さんが頑張ってくれていますが,出張中で時間があって本屋さんが目の前にあると,ついつい入ってしまいます。先日も空港で,原題のサブタイトルが「The Art and Practice of the Learning Organization」という本を購入しました。
日本語書籍名に「The Art and Practice」の部分は入っていませんでしたが,ここは「技術と実践」と訳すべきかもしれません。しかし,なぜArtという語を使ったのかが引っかかりました。
Ronald H. Coaseの「The Nature of the Firm」は,「企業の本質」と訳されています。企業は人間の経済活動によって生まれますが,その「本質」はNatureであるがArtではない。
岩井克人は,経済を蚊柱に例えました。個々の経営者を蚊に例えるのは甚だ失礼な気もしますが,個体の判断で自由に飛んでいる飛型が全体としては特定の形をなしている例としてわかりやすいかもしれません。
芸術としてのArtは人間の創意工夫,感性の発露であり,そのようなニュアンスを表現する語としてArtを用いたのかもしれません。しかしそれが全体として形をなしているのであればその形成原理はNatureなのでしょう。経営者の独創的な活動Artが社会全体としてみると経営者の本質Natureを示している,このように理解できるかもしれません。
ここでArtとしての経営者の活動は,一般企業の経営者であっても,農業経営体の経営者であっても同じだろうと思います。農業経営者にお話を伺うと,どなたも,ご自身の置かれた状況を理解し,手にしている資源を有効に活用しながら,創意工夫でもってよりよい経営成果を得るために努力されている。それはけして一律ではない,まさにArtだろうと思います。
農業と食に関わる経済経営活動のNatureを研究するのが農業経済学であるなら,そのArtを研究するのが農業経営学ではないかと思います。その意味で農業経営学では,事例研究を大事にしたい。また,農業経済学との関係を意識したい。その上で農業経営学の発展に貢献したいと思っております。
日本農業経営学会 第23期会長 仙北谷 康
(英語指導も含めて,異論,反論,コメントをよろしくお願いいたします。)